研究者プロフィール
- 現職: 博士3年(2025年現在)
東京都立大学都市基盤環境学域(本所属)、東京大学都市工学専攻(2年次 特別研究学生)、ポワティエ大学IC2MP(フランス 3年次 客員研究員) - 博士課程時代の分野: 環境工学、水処理技術、水質、紫外線、質量分析、量子化学計算
- 博士課程時代の研究テーマ: 紫外線促進酸化処理による微量化学物質の分解
博士課程の1日の研究スケジュール
東大在籍時
| 時間帯 | 内容 | 補足・ポイント |
| 7:00〜8:30 | 起床、朝食、身支度 | |
| 8:30〜10:00 | 移動、文献調査、データ解析など | 電車移動の時間が長いため、簡単な作業に充てる |
| 10:00〜18:00 | 研究室到着、実験、ミーティング | 朝食をしっかりとっていたので、昼食は抜き たまに誰かが出張から戻ってくるとお土産が置いてあるので、それをつまんで小腹を満たすミーティングなど固定スケジュールに応じて、実験計画を柔軟にたてる |
| 18:00〜19:30 | 移動、文献調査、データ解析など | 電車移動の時間が長いため、簡単単な作業に充てる |
| 19:30〜21:00 | 帰宅、軽い運動、夕食、シャワー | |
| 21:00〜24:00 | デスクワーク、気分が乗らなければ自由時間、ストレッチ | 週60時間研究に充てることを目標にする とはいえ机に向かう時間ばかり気にしても仕方ないので、集中できないときはリフレッシュに充てる |
ポワティエ大学異動後
| 時間帯 | 内容 | 補足・ポイント |
| 6:30〜8:00 | 起床、フランス語の勉強、軽い朝食、身支度、移動 | |
| 8:00〜11:30 | 研究室到着、実験、日本の指導教員とのミーティング | 欧州はエアコン設備がない家屋が多く、大学も一部の実験室を除いて空調設備がない そのため、夏場は涼しい午前中(気温20~25℃)に実験を終える時差の関係で日本にいる方とミーティングする場合は欧州時間の早朝に行う |
| 11:30〜12:30 | 昼食、食後の紅茶 | |
| 12:30〜18:00 | デスクワーク、翌日の実験の準備、 夏以外はこの時間帯に実験することもある | 6月下旬から7月にかけて、熱波が直撃すると気温が40℃近くまで上昇しするうえ、日没が22時ごろのため、夕方になっても気温が下がらない それにもかかわらず、ほとんどの部屋にはエアコンがないため、恒温室にラップトップを持ち込んで作業することもある |
| 18:00〜20:30 | 帰宅、軽い運動、夕食、シャワー、フランス語の勉強 | |
| 20:30〜23:30 | デスクワーク、気分が乗らなければ自由時間、ストレッチ | 週60時間研究に充てることを目標にする とはいえ机に向かう時間ばかり気にしても仕方ないので、集中できないときはリフレッシュに充てる |
研究生活で使っているツール
- 研究系ツール: Mendeley, AnyDesk, R, Mind the Graph, ResearchGate, Google Scholar, LinkedIn, その他専門分野特有のソフトウェア
- 仕事系ツール: Slack, Zimbra, Zoom, Office, Adobe, Google Calendar, Google Drive, FortiClient VPNなど
研究環境
- 指導教員数: 各在籍機関に1人
- 指導スタイル: いずれの所属先もコアタイムはありません。詳細は以下の通りです。
<都立大> 指導教員の方が学生の自主性を重んじる方でしたので、1対1でのミーティングは必要に応じてという感じです。ラボ内のミーティングが学期中は週に一回あり、各学生は学期中に三回(つまり月に一度程度の頻度)進捗報告をします。さらに、近い分野の他研究室との合同ゼミが学期中は月に一度開あります。
<東大> 指導教員とのミーティングは1~2週に一回あり、そこで細かい実験内容の打ち合わせをしておりました。ラボ内のミーティングが平均して月に2度くらい開催されることに加え、コース内、5~6個のラボの合同ゼミが学期中は毎週開催され、他の研究室の方と幅広く議論できます。
<ポワティエ大学> 特に決まったミーティングはありません。指導教員が抜き打ちでオフィスにやってくるので、その時に進捗を報告しています。 - ラボ構成:
<都立大> 研究機関としては小規模なため、各研究室が独立している印象がありました。教員一人、学生10名程度(2023年度の構成要員 博士課程2人、修士課程4人、卒論生4人)
<東大> 規模が大きく、ラボの数も多いため、割り振りが細かいです。コース内: 教員20人程度、学生多数。ラボ内(2024年度): 教員2人、ポスドク1人、博士課程4人、修士課程3人、卒論生2人、研究生3人(正規の学生でない留学生、私含む)
<ポワティエ大学> こちらも規模が大きく、学科内すべては把握しておりません。ラボ内(2025年度): 教員1人、ポスドク1人、博士課程2人、客員1人(私)、インターン2人(他大学の修士課程の学生、夏季に短期で実験をする) - 研究室の長所:
<都立大学> ミヤコMIRAIプロジェクトのおかげで博士課程の学生はほぼ無条件で経済支援を受けられます。キャンパスがきれいです。
<東大> 立地が良いです。東京駅まで約15分、羽田空港まで約一時間なので、出張の前後に大学に行くこともできます。狭義の専門にとらわれず幅広く議論できるようカリキュラムが設定されていると感じました。研究の日常を支える基盤がしっかりしています。
<ポワティエ大学> 分析機器が充実しています。さらに、分析機器の使用に関して専門の技術職員がいるため、広域な学科内で他のグループの機器を拝借することも可能となっております。 - 研究室の短所:
<都立大学> 立地が悪く、新宿まで40分かかります。ラボの入っている建物のネット環境も悪いです。研究費の使用について、東京都公立大学法人の規定に従う必要があるため、手続きが煩雑と感じております。
<東大> 分析機器がプラットフォーム化されていないため、他コースの保持する機器の貸し借りが難しくなっています。
<ポワティエ大学> ミーティングがないため、ただ自分の作業をするために大学に来ているような感覚になることがあります。グループ内の他の人と、実験以外の交流を持つ機会がありません。機器は多くあるが、マニュアルが用意されていないものも多いため、一部の操作がローカルルールでまかり通っている印象を受けます。
プライベートとお金関連
| 費用 | 月額(円) |
| 家賃+光熱費 | 10万 |
| 食費 | 5万 |
| 生活雑費 | 1万 |
| 学費 | 全額免除 |
| 税金+保険など | 1万 |
| 娯楽費 | そのときの収入に応じて(一年次はちょっと飲みに行くくらいのお金しかなかったが、三年次ではたんまり趣味に投じた) |
| その他 | 2024年度(DC2一年目)は研究遂行経費(科研費では申請できないが研究のために支払った金額(例:参考書の購入)を最大で年間72万円分、所得税の課税対象から外す制度)を利用した |
博士進学を決めた理由
- 10代のころから博士号取得および研究職に興味があったから。
- 20歳のときに低所得国での公衆衛生、水質問題に興味を持ったから。
- 大学院まで恵まれた境遇で教育を受けてきたと感じているので、自分の得た知識・技能を社会の発展に還元して、生きた証を残したいと思っているから。
修了後の進路
- 自分の周りの博士学生の進路: アカデミアや大学の研究室が多いです。民間への就職を検討している同期もいます。
- 博士課程のスキルについてどう思う?: 何事においても努力してきたことが無駄になることはないと思います。次項で具体的に記載しておりますが、博士号は一生懸命勉強して専門知識を深めることだけで与えられる学位ではないと考えているので、研究を通じて得た能力を汎用的に応用することが大切だと思います。
- 博士課程で得た研究以外の力: 文化や価値観の違いを尊重する精神、自分の意見を論理的に組み立て相手に伝えるコミュニケーション力、相手の意見の本意を聞き取る理解力、ものごとの本質をとらえる洞察力、思い通りにならないことを受け入れる忍耐力
- 修了後の進路:
<確定済み> ポワティエ大学で2年間のポスドク (海外学振)
<その後の希望> マリーキュリーフェローに採択され、欧州の他の国の大学でさらに数年経験を積んだのちに、ERC (European Research Council) のStarting Grantを取得して欧州(希望はスイス)でテニュアをとる。 - 将来への楽しみ: 学会などを通じ、世界中を旅して様々な背景の人々と出会うことが何よりの楽しみです。
- 将来への不安: ポスドクは期限付きの雇用なので、将来の収入がまだ見通せません。海外で複数回引越しをすることになりそうなのが鬱陶しいです。本当は近所のブティックで素敵な家具を探したいのですが、迫り来る引越しのことを考えると購入は躊躇しています。
これからの博士学生への率直なアドバイス
博士課程進学前に知っておくべきこと
博士課程は、挑戦した分だけ自分の成長につながる期間だと考えています。素晴らしい指導教員であれば、挑戦する野心を持った若者を応援してくれるはずです。そのためにはご自身に野心があることを指導教員に知ってもらわなければなりません。すなわち、自分から積極的に行動を起こして(=挑戦して)、失敗して、失敗を分析して、一握りの幸運を手にするよう努力することが求められます。
現実的な話ですが、経済状況に関して把握しておくことも大切です。日本の制度的に、修士課程までは学生という扱いが強いですが、博士課程では多くの方が独立して生計を立てることになると思います。その一方で企業に就職しているわけではないので、国民保険、年金、確定申告など自分でやらなければならない行政手続きも増えます。また、独立して生計を立てるとはいっても、就職しているわけではないので、何もしなければ給与はいただけません。奨学金など何かしらのルートを通じて自分でお金をいただくよう申請し、採択される必要があります(これも挑戦ですね)。ここで、採択されるためは、自分の研究を支援者に伝え、それがいかに世の中のためになるか、あるいは自分がいかに潜在的な力を持った人材なのか認められる必要があります。この過程こそが研究者として成長するために必要なことだと思います。
覚悟しておくべきこと
博士課程というものに対して様々な情報(噂)が出回っているかと思います。私見ですが、本質をとらえているものもあれば全くのデマもあるのではないかと推測しています。私が考えていることは、普通な人生なんてものはないということ、そして自分の選んだ人生に責任を持つということです。これが「持つべき覚悟とは」という問いに対する私なりの答えです。
人は皆、違うものを見て違うものに影響を受けて育ってきたはずです。人は国籍、人種、宗教、といった表面的な情報で分別されるものではありません。この世に誰一人として同じ人はおらず、誰かが普通だと思っていることが他の誰かとっての正解であるとは限りません。博士号は一般にPhDと呼ばれますが、これはラテン語のPhilosophiae Doctorの略称です。つまり哲学なのです。私のように工学の道を究める者にも哲学の称号が与えられます。博士課程の研究を通じて、高い倫理観を身に付け、学問を俯瞰的に捉え、自分の人生と社会の発展に投影する。これが博士人材になることの責任の一つだと信じています。
最後に一言
『若者のすべて』という映画でAlain Delonが演じた役のセリフから拝借するのなら、人生は考え方次第です。何が降りかかろうと、考え方次第でそれは私を破壊するものにも、私を更なる高みへと導くものにもなりえます。運命とはあらかじめ決まったものではなく、人生の岐路、邂逅に対する我々の選択が導く先にあるものだと考えています。
私はこれまで研究を通じて世界中の方々とつながりを築く機会に恵まれてきました。まだまだキャリアは始まったばかりなので、これからも様々な国に赴き、多くの方と出会うことを願っております。我々の書く論文に感情が入る余地はありません。しかし実際に研究者に出会うこと、それは私に人として成長する機会を常に与えてくれました。これから先、たとえどれだけの研究業績を残そうと、他者から学ぶ謙虚さを持ち続けられれば真の一流になれると信じております。
研究のこと、留学のことなど、この記事を読んで何か気になったことがありましたら、いつでも質問・相談を歓迎いたします。yuichiro.murata*univ-poitiers.fr (*を@に変換してください)までご連絡いただければと思います。私で何か役に立てることがございましたら喜んでお受けいたします。
研究生活の一幕
2025年のGordon Research Conference(GRC)での集合写真(私は5列目の左端)
GRCは特定の学会を指す呼称ではなく、様々な分野の学会を扱うアメリカの団体の名称です。私の専門分野に係るGRCの学会では、二年に一度マサチューセッツ郊外にあるキャンパスを一週間貸し切り、「隔離」された環境でひたすらに議論します。GRCは、私のような若手から大御所まで、同じ立場でテーブルを囲み親睦を深められる素晴らしい学会と思います。
