研究者プロフィール
- 現職： 社会人（2025年現在）
- 博士課程時代の分野： 細胞生物学、免疫学
- 博士課程時代の研究テーマ： 炎症関連分子のmRNA制御機構
博士課程の1日の研究スケジュール
| 時間帯 | 内容 | 補足・ポイント |
| 9:00〜9:30 | 研究室到着 メール・実験予定確認 | 当日の実験スケジュールを整理。試薬準備を並行。 |
| 9:30〜12:00 | 実験①（細胞培養・PCR・手術・解剖などの動物実験） | 朝は眠気が残るため、頭をあまり使わずに進められる実験を中心に行っていた。 |
| 12:00〜13:00 | ランチ | 学食で昼食をとりながら英語の勉強（単語学習）。 |
| 13:00〜17:00 | 実験②（臓器から細胞分離、細胞生物学および分子生物学的手法の実験） | 解析や保存用サンプルを大量に作成。ある程度まとめて一気に分析・実験を行うスタイルを取っていた。 |
| 17:30〜19:00 | ディナー | 学食で夕食をとりながら英語の勉強（リスニング）。少し離れた学食に足を運び、その後散歩をして気分転換していた。 |
| 19:00〜21:30 | 実験③(残りの実験、FCM)＋データ解析、スライド作成、論文検索など | サンプルを4℃の部屋に保管できるところまで進めるようにしていた。 |
| 22:00～ | 帰宅 |
博士課程時の研究環境
- 指導教員数： 0人
- 指導スタイル： 放任主義型
- ラボ構成： 研究室： 教員2人程度、学生3人程度 ポスドク5人、技官2人
- 研究室の長所： 自主性がすべてだった点。
- 研究室の短所： 自主性がすべてだった点。
博士課程時のプライベートとお金関連
- 主な休日（研究室に行かない日）はどれぐらいある？： 博士課程在学中、研究室に行かない日はそれほど多くはありませんでした。土日や祝日もほとんど研究室に通っていましたが、実験がないときには休むこともありました。特に日曜日の夜は必ず休むようにして、心身のリフレッシュを心がけていました。
- 休日は何をしている？： 休日には、論文を読んだり、データを整理したり、今後の研究戦略を練ったりと、研究に関連する活動に時間を充てていました。完全に研究から離れるというよりも、研究をより効率的に進めるための準備や思考に使うことが多かったです。
- 主な収入（学振／RA／TA／奨学金／バイト等）： 収入面では、奨学金に加えてRA（リサーチ・アシスタント）やTA（ティーチング・アシスタント）としての活動から得ていました。アルバイトとの両立は行っておらず、研究と学内業務に専念していました。
- バイトとの両立は可能？： 私には不可能でした。
| 費用 | 月額(円) |
| 家賃＋光熱費 | 70000 |
| 食費 | 50000 |
| 生活雑費 | 20000 |
| ガソリン(原付用) | 5000 |
博士課程進学を決めた理由
- 研究者になりたかったため。
- 学部生のときにアカデミアに残りたいと考えたため。
博士課程修了時について
- 自分の周りの博士学生の進路： アカデミア＋企業(研究職)が多い。
- 博士課程のスキルについてどう思う？： ビジネスにも活きると考える。
- 博士課程で得た研究以外の力： 運をつかむ力・何ごとにも動じない鈍感力および粘る根性力
- 博士課程修了時の業績について： 筆頭-3本・共著論文数-4本、学会発表数-2回
現在の生活について
- 企業就職を決めた理由： アカデミアで生き抜けるレベルではないと悟ったため。
- 企業就職のよかったこと： 技術営業というポジションでは、最先端のサイエンスに関わることができるだけでなく、ビジネスにも携われます。そのうえ、時間に余裕が生まれ、新しい挑戦にも取り組めている点が魅力です。
- 企業就職して難しさを感じたこと： 自分で実験を組み立てて進めたい気持ちはありますが、あくまでもお客さまのテーマが中心となるため、出しゃばらないように注意する必要があります。そのため、なるべく俯瞰的な立場で関わることを心がけています。
これからの博士学生への率直なアドバイス
博士課程進学前に知っておくべきこと
博士課程への進学を考える際には、「今やりたいテーマ」だけでなく、「将来どのような人物になりたいか」という視点で研究室を見学することが重要です。その研究室で自分が研究生活を続けていけるかどうか、具体的にイメージできるかを確かめましょう。
研究は一人で進める場合もあれば、協力しながら行う場合もあります。いずれにしても人間関係は非常に大切です。必ずラボ見学を行い、所属する学生やスタッフと積極的に話してみてください。可能であれば複数回訪問し、雰囲気をじっくり感じ取ることをおすすめします。
また、就職活動で企業分析を行うように、研究室選びでも「ラボの文化」を理解することが欠かせません。若手PI（Principal Investigator）のラボと、大御所のラボでは雰囲気や方針が大きく異なります。事前にその研究室が発表している論文を確認し、研究の方向性やスタイルを把握しておくとよいでしょう。ラボごとに個性があり、その個性に自分が魅力を感じるかどうかが、選択の重要なポイントになります。
覚悟しておくべきこと
博士課程に進学する際には、いくつかの点について覚悟を持って臨む必要があります。
まず、20代後半という人生の重要な時間を研究に費やすことになります。この期間はキャリア形成においても大切な時期であり、その選択が将来に大きな影響を与えることを理解しておく必要があります。
さらに、研究は必ずしも思い通りに進むとは限りません。成果が出ないまま時間が過ぎてしまうこともあり、博士課程には修了までの期限があるため、計画的に取り組む姿勢が不可欠です。
そして最後に、研究には「答えがない」という状況がつきものです。正解が存在しない問いにどう向き合うか、どのように自分なりの解を導き出すかが、研究者としての成長につながります。困難に直面したときに柔軟に対応できる力を養うことが大切です。
最後に一言
私は幸運にも博士課程を無事に修了することができ、進学を後悔したことはありません。幅広く実験や研究テーマに取り組んだ経験は、現在の仕事にも大いに役立っています。ただし、優秀な方であってもラボやテーマとの相性が合わず、途中で退学してしまうケースがあるのも事実です。博士課程にはリスクもありますが、一方で得られるベネフィットも確かに存在します。私の仕事柄、多くの方と名刺交換をしますが、ライフサイエンスや製薬関連の分野では、研究職、事業開発、プロジェクトマネージャーといった職種の方々は、博士号を取得されている方が多く見受けられます。特に外資系ライフサイエンス企業では、本社（海外）の方と関わる際に、博士号を持っていることが前提のような雰囲気があり、その有無によって対応に微妙な違いが生じる場面もありました。国際的な場面では、研究だけでなくビジネスにおいても博士号が大きな意味を持つのだと実感しています。
そして何より、学生時代には所内の勉強会を通じて複数のラボの同世代と交流する機会がありました。研究生活は大変なことも多かったですが、仲間とともに楽しく過ごすことができ、いまでも続いているそのつながりは大きな財産となっています。
